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アトピー性皮膚炎と発汗、かゆみ

2018.05.21

投稿者
クミタス

アトピー性皮膚炎の患者さんにおいては、発汗機能が正常でないことがあります。
アトピー性皮膚炎患者さん40名、アトピー性皮膚炎でない方14名にフットバスによる温熱負荷を行い、上背部の皮疹部と無疹部の発汗量を経時的に測定したところ
・アトピー性皮膚炎でない方では、全員発汗がみられたのに対して、アトピー性皮膚炎患者さん6名では、温熱負荷後も発汗がみられなかった。
・発汗がみられたアトピー性皮膚炎患者さんでは、重症度が高いほど、アトピー性皮膚炎でない方と比べて、発汗量が減少する傾向がみられた。
・アトピー性皮膚炎患者さんでは、アトピー性皮膚炎でない方と比較して、皮疹部、無疹部とも汗の分泌が起こるまでの時間(発汗潜時)が20分以上に延長した例が多く、アトピー性皮膚炎でない方の、汗の分泌が起こるまでの時間(発汗潜時)の最長が20分10秒であったのに対し、アトピー性皮膚炎患者さんでは、6例で無疹部で汗の分泌が起こるまでの時間(発汗潜時)として30分以上を要した。
・アトピー性皮膚炎患者さんの経皮水分喪失量(TEWL)は、無疹部、皮疹部ともアトピー性皮膚炎でない方と比較して有意に上昇しており、皮疹部ではTEWLの値が高いほど発汗量が低下していた。
など、アトピー性皮膚炎患者さんでは皮膚からの水分蒸散量が高く、汗の分泌が起こるまでの時間が長く発汗機能が低下しており、皮疹部の状態によっても発汗程度が異なり、また足など一部を温めた場合に発汗しない場合もあります。

出典・参照:アトピー性皮膚炎患者の局所温熱負荷による全身性発汗機能の解析―二点同時測定方式による皮疹部および無疹部の比較検討―

​アトピー性皮膚炎患者さんと汗


~体が温まると痒い
正常な発汗には、体温を調節するはたらきがありますが、アトピー性皮膚炎患者さんにおいては、体に熱がこもった状態で痒みを感じやすい方も多くいらっしゃるかと思います。
皮膚に炎症が起きると、神経終末からサブスタンスPが産生され、サブスタンスPにより真皮線維芽細胞から神経栄養因子の1つであるアーテミンが誘導されることがあります。アーテミンはアトピー性皮膚炎や貨幣状湿疹などの病変部に沈着し、皮膚末梢知覚神経の数を増加させるとともに、皮膚の温感を敏感にし、痒みを誘発する可能性が示唆されています(アーテミンは大気汚染物質によっても誘導されるとの報告もあります)。

~汗をかきそうになると痒い、汗をかいているときに痒い
発汗は、皮溝(皮膚表面の溝)、皮丘(皮溝と皮溝の間)からなされ、皮溝からの微量の発汗は角質の水分量に影響するとも考えられています。
アトピー性皮膚炎患者さんの皮膚においては、皮溝からの発汗が少なく、アトピー性皮膚炎が慢性化すると皮丘からの発汗も少なくなるとの示唆もあります。皮膚表面に汗が現れない場合にも、汗が真皮の汗管や汗腺周囲に漏れ出しており、炎症を誘発し、痒み、発赤、皮疹を起こすことがあるとみられています。また一部の皮膚での発汗が低下すると、代わりに別の箇所が発汗亢進し、進行すると体全体が発汗低下するとの考え方も示されています。

~汗をかいた後に痒い
汗抗原によるアレルギーの可能性も考えられます。
https://www.kumitasu.com/contents/hyoji/2734
ほかにも、時間が経つにつれ汗成分が変化することによる影響可能性も考えられています。
ダニ抗原(DerP1、DerF1)、キウイフルーツ抗原(アクチニジン)は、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)活性を持ち、皮膚のバリア機能を障害するとみられています。汗にもプロテアーゼが含まれますが、プロテアーゼ阻害作用を有する成分(プロテアーゼ インヒビター)も含まれ、皮膚表面におけるプロテアーゼの活性を抑制するとみられています。しかし時間経過とともにプロテアーゼ阻害作用が低下するとの示唆もあります。
タンパク質分解酵素システインプロテアーゼによる影響
https://www.kumitasu.com/contents/hyoji/2252


また、表皮ケラチノサイトは、Toll-like receptor(TLRs)を発現することで、多くの抗菌ペプチドを産生し、外界の病原体の侵入を排除するはたらきがあるとの示唆もあります。汗はdermcidin(DCD)という抗菌ペプチドを産生するとの示唆もありますが、アトピー性皮膚炎患者さんではDCDの産生が低下しており、アトピー性皮膚炎患者さんの皮膚において黄色ブドウ球菌や溶連菌が増殖し易い状態になることに影響している可能性も考えられています。

発汗により角質の水分量が維持され保湿効果をもたらし、慢性のアトピー性皮膚炎患者さんにおいてもバリア機能保持に重要な役割を果たすと考えられるなど、汗をかくこと自体は有用な面があるとみられています。発汗の観点では、​ワセリン、ワセリンを基剤にするステロイド剤よりもヒルドイド(保湿剤)などがより適している面があるとの報告もあります。また新たな見解についてもご紹介していきたいと思います。


参照:アトピー性皮膚炎患者の汗の性質評価:pHと蛋白濃度について ほか

汗によるアレルギー
https://www.kumitasu.com/contents/hyoji/2734
発汗への影響~ステロイド剤、保湿剤、ワセリン
https://www.kumitasu.com/contents/hyoji/2181
黄色ブドウ球菌とアトピー性皮膚炎について
https://www.kumitasu.com/contents/hyoji/1903
保湿について~症状再燃予防のためにも
https://www.kumitasu.com/contents/hyoji/2090

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