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腸炎ビブリオのゲノム解析

2026.10.08

投稿者
クミタス

腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)は海水中に広く生息する細菌で、主に生または加熱不十分な魚介類、とくに牡蠣の摂取によって胃腸炎を引き起こします。オーストラリアでは長らく患者発生は少なく、2002〜2019年に報告された集団発生は4事例・24人にとどまっていました。しかし2021年以降、牡蠣の摂取に関連した3件の流行が発生し、検査確定例は310人を超えました。この急増の背景を明らかにするため、各州の行政機関、検査機関、養殖業者が協力し、全国規模の全ゲノム解析が行われました。

解析対象は2004〜2025年に収集された676株で、臨床由来363株、環境・食品由来299株、由来不明14株。環境・食品由来株の大部分は牡蠣(249株)から分離されていました。病原因子である毒素遺伝子(tdh または trh)を保有する株は全体の56%でしたが、臨床由来株では93.9%であった一方、環境・食品由来株では10.4%にとどまり、環境中には多数の腸炎ビブリオが存在するものの、実際にヒトの感染症に関与するのは限られた系統であることが示唆されました。
オーストラリア国内の胃腸炎症例で主要な系統はST36、ST50、ST417。ST36は世界各地で流行している系統で、系統解析から2005〜2011年頃に米国太平洋岸北西部から豪州およびニュージーランドへ一度持ち込まれ、その後地域内で定着・循環したと推定されました。ニュージーランドの2019年流行、豪州の2021年(南オーストラリア州)および2024年(ニューサウスウェールズ州)の流行は、このST36に関連していました。
一方、ST50とST417は豪州に土着した系統と考えられ、特にST417は豪州株のみから構成、海外株とは大きく離れた独自の系統を形成していました。2021年の全国的流行では、ST50とST417の複数系統が同時に関与しており、単一株による流行ではなく、多系統性の流行であったことが示されました。
さらに、世界の公開ゲノム1万株超との比較では、毒素保有株の約44%がST3、約12%がST36で占められていた一方、ST50とST417は海外ではほとんど認められませんでした。世界的流行株であるST3は豪州では旅行関連例や輸入食品に限られ、国内環境からは検出されていませんでした。
本研究により、豪州における近年の腸炎ビブリオ症増加には、海外から侵入した流行株ST36の定着と、豪州固有の土着系統ST50・ST417の拡大という二つの要因が関与していることが示され、これらの結果は、牡蠣養殖海域における継続的なゲノムサーベイランスの重要性を示すものとも考えられています。

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