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小児における食物アレルギーへの対処①

2015.05.23

投稿者
吉原重美 医師

小児における食物アレルギーへの対処について、3回にわたり、診療に関わるアレルギー専門医にお話しを伺います。
 
獨協医科大学病院 小児科 吉原重美先生

【略歴】2004年 8月〜獨協医科大学とちぎ子ども医療センターアレルギー・呼吸器疾患部門長(兼任)、2007年 4月〜獨協医科大学医学部小児科学准教授
日本アレルギー学会:専門医、指導医。*喘息予防・管理ガイドライン作成委員
日本小児アレルギー学会:理事、評議員。*小児喘息治療・管理ガイドライン作成委員
日本小児呼吸器学会:運営委員。*小児の咳嗽診療ガイドライン作成委員長(2014年4月発刊)、日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会:理事、食物アレルギー研究会:世話人 など

特異IgE抗体価(RAST)の捉え方


アレルギー検査の一つに特異的IgE抗体の血液検査があります(IgE RAST)。特異的IgE抗体の血液検査は、あくまでその成分にどの程度感作しているかを調べるものになります。
 
感作しているというのは、今その成分を摂取、吸収するとアレルギー症状が出る、ということを意味しているわけではなく、感作しているからといって発症しているとは限らないのですが、特異的IgE抗体価を0~6の7段階におおまかに分けたclassの数値を気にされる方も多い印象です。
このclassの段階が高いほど症状の重症度が高いとは限らず、卵白の特異IgE抗体がclass5であっても、症状が出ないこともあります。その食品を食べていて症状が出ないのに、特異的IgE抗体の血液検査で0でなかったから除去をする、親に食物アレルギー症状があるので子どもの食物アレルギー検査をしたい、という方もいらっしゃるのですが、特異的IgE抗体の血液検査だけで、食物アレルギーの確定診断には至りません。

食物アレルギーの確定診断には


食物アレルギーの確定診断には、本来、食物の除去試験、負荷試験が必要になります。
 
例えば6ヵ月のお子さんが離乳食で初めて卵を食べた時に症状が出て受診された際には、特異的IgE抗体の血液検査をおこない卵白、卵黄、加熱処理した卵白オボムコイドのうち陽性反応があれば、2週間卵の除去をおこない、症状が起きなければ卵アレルギーだと判断します。
 
アレルギー症状と思われる症状が出たが、卵アレルギーかどうか分からない場合、卵アレルギーも疑い、血液検査で卵の特異的IgE抗体を調べ、特異的IgE抗体価がclass2、3であった場合には、食物の負荷試験をおこない、実際に卵を食べてみて症状が出るかどうかを診ていきます。
 
このように、特異的IgE抗体の血液検査はある程度の参考にはなりますが、食物の除去試験、負荷試験を経て確定診断となります。
 
またアレルギー症状のある方においては、特異的IgE抗体の血液検査を6ヶ月ごと位におこない抗体価の推移を見ます。そして、その数値の低下を参考に、いつ頃から負荷試験を始められるかを判断します。

プロバビリティカーブ


「プロバビリティカーブ」は、横軸に特異的IgE抗体価、縦軸に症状誘発の可能性をとり、特異的IgE抗体価がどの位であれば、症状誘発が何%で起こり得るというのを1歳未満、1歳、2歳以上で表していいます。
 
例えば、6ヵ月の乳児において卵白の特異的IgE抗体価が3.0UA/mlの場合、10人中8人にて食物アレルギーの症状が出る可能性があるけれども、3歳になるとそれが半分の10人に3人か4人に食物アレルギーの症状が出る可能性があるという確率を示唆したもので、卵、乳、小麦において表されています。
 
この「プロバビリティカーブ」を活用し、卵、乳、小麦においては、症状誘発可能性が高い段階では除去を継続し、カーブよりも特異的IgE抗体価が下の数値であれば、食物負荷試験をおこなうかどうかの判断材料にするようになってきています。

以下、プロバビリティカーブの図
出典:食物アレルギー診療ガイドライン2012(作成:日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会)






 












 

アレルゲンコンポーネント


ほかに、食物負荷試験と特異的IgE抗体の観点において「アレルゲンコンポーネント」も重要になります。
 
アレルゲンとしては卵、乳、小麦、ピーナッツなどが該当しますが、その中にもそれぞれ多数のたん白質が含まれています。
「アレルゲンコンポーネント」とは、アレルゲンとなる食品の中で特異的IgEと反応する蛋白質を指しており、どの蛋白質に反応するかを明確にすることで、より正確な診断、適切な負荷試験、必要最低限の除去につながります。
 
例えば、卵にアレルギー反応のある方でも、オボムコイドに陰性であれば加熱処理卵を食べられる可能性が高くなる、ピーナッツの特異的IgE抗体価がclass3であっても、Arah 2の特異的IgE抗体価がclass0であれば80~90%において食べられる可能性がある。「アレルゲンコンポーネント」は、卵、小麦、ピーナッツにおいて特定が進んでいますが、負荷試験にもっていくまでの1つの指標として活用できます。
 
血液の検査だけでアレルギーの重症度が分かるわけではなく、アレルギーの重症度は食べてみて分かるものです。
例えば卵で言えば加熱した物と加熱していない物とでは、症状程度が異なるため、特異IgE抗体価もある程度は加味しながら、微量に含まれる加工品、加熱した卵、生卵と段階を踏んで負荷試験もおこなっていきます。
その負荷試験の上でも、プロバビリティカーブ、アレルゲンコンポーネントにより、事前に可能性程度を把握したうえで、負荷試験を実施できることは、アレルギーの診療の上でも進展している点かと思います。


※現在、検査で使用可能なアレルゲンコンポーネントは、イムノキャップによるオボムコイド(加熱卵白)、ω-5グリアジン(小麦)、Arah2(ピーナッツ)、カゼイン(乳)になります。

団体名 獨協医科大学病院
住所 栃木県下都賀郡壬生町北小林880
連絡先 0282-86-1111(代表)
特徴 小児アレルギー外来は、月曜~金曜の午前9時から11時、および午後1時から。医療連携協力施設はこちらにhttps://www.dokkyomed.ac.jp/hosp-m/iryou/65.html

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