1. クミタス記事
  2. クミタス記事詳細

読み物

人気記事

残留程度と表示について①

2015.08.16

投稿者
クミタス

Food Standards Australia New Zealandでは、残留量がかなり低い(抑えられる)、残留していてもごく微量で安全性が高いと考えられる成分については、アレルゲン表示義務対象から外す運用を取るかどうかの検討のため意見募集をおこなっています。

今回は以下が対象になっています。

・小麦でん粉から作られたグルコースシロップ
・完全精製大豆油
・大豆由来トコフェロール、フィトステロール
・小麦や乳清由来蒸留アルコール

https://www.foodstandards.gov.au/media/Pages/Changes-proposed-to-mandatory-allergen-labelling-requirements.aspx

これらの残留程度や日本での表示運用状況についてお送りします。

グルコースシロップ


グルコースシロップとは液状のぶどう糖のことで、水あめも指すことがありますが、アメリカではとうもろこしでん粉から、EUでは小麦でん粉から主に作られます。小麦でん粉から作られたグルコースシロップ、マルトデキストリンについては、小麦グルテンの残留リスクがあるとして、2015年8月時点では小麦を含むものとしてEUにおいて表示義務があります。
ですが小麦から作られたグルコースシロップからはグルテンを除去することが可能であり、実際にそのグルコースシロップを毎日摂取したセリアック病患者さんにおいて、プラセボ対照比較で、24週後の消化器症状、血清学的検査または吸収不良性に有意差はなかった、との報告があります(無作為、二重盲検)。

Clinical trial: gluten microchallenge with wheat-based starch hydrolysates in coeliac disease patients - a randomized, double-blind, placebo-controlled study to evaluate safety.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18710436?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum

日本での表示においては、異性化液糖は精製度が高いため由来物の表示の必要性は低いものの、水あめ、ぶどう糖については「精製度合によっては、製造に使用する分解酵素(小麦由来のアミラーゼ)や微生物由来酵素の培地(小麦、乳等)成分が残存する可能性があります。」との見解ではありますが、表示ルールを定めているわけではありません。
https://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin237.pdf

完全精製大豆油


未精製であったり高度精製でない大豆油には大豆のタンパク質が多く含まれますが、高度精製大豆油となるとほとんど含まれなくなります。
以前から高度精製大豆油は大豆アレルギーの方にとって、アレルギー反応を示す可能性が低いことが言われています。
ただ、市販品のすべてが高度精製油であるわけではないため、大豆タンパクが残留しているか高度精製油かどうかを明記する事が望ましく、外食時の料理で使用される油にも注意が必要です。

日本での2015年8月時点の表示解釈においては、蒸留等の精製過程を経る食品について、以下見解となっています。
「一般に加工食品は、加熱・濃縮・ろ過・蒸留等、様々な製造・精製過程を経て最終製品となりますので、その過程においてアレルギー物質が変性することにより、抗原性が減少、若しくは消滅する可能性が考えられます。
しかし、現在、全てのアレルギー物質を特定できているわけではなく、その物質のどの部分に抗原性があるかの知見も少ないことから、どの製造・精製過程を経ればアレルギーを引き起こす危険性が無くなるのかは分かっていません。また、様々な製造過程を経て完成した食品自体に抗原性がないとはいえない場合もあります。
したがって、特定原材料等を加工する際の製造過程によって、表示の必要があるか否かの判断は難しく、加工製品に抗原性が認められないか、食物アレルギー研究班の報告による抗原性の低い物質等に当たらない限りは、原則表示する必要があります。今後、個々の食品について更に調査を行い、抗原性の有無を科学的に検討していく必要があります。このことにより、過去の症例からみて、アレルギーを起こすことが知られている加工食品(乳清、大豆油等)については、表示により判別できるようにするべきです。」

出典:アレルギー物質を含む食品に関する表示Q&A
https://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin12.pdf

参考:Taylor, S.L. et al. Soybean oil is not allergenic to soybean-allergic individuals, Journal of Allergy and Clinical Immunology Volume 113, Issue 2, Supplement, Page S99, February 2004.
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(03)03157-9/abstract

https://www.foodallergy.org/allergens/soy-allergy
https://www.hc-sc.gc.ca/fn-an/label-etiquet/allergen/oil-refined-huile-raffinees-eng.php

大豆由来トコフェロール


天然混合トコフェロールは、大豆の脱臭蒸留油から抽出され、脂肪分の多い食品の酸化防止剤としても使用されています。脂肪摂取が60~80g/dayの場合、トコフェロールは3~4mgとなり、大豆タンパク0.03μgの摂取に相当します。
この量になるとアレルギー症状誘発のリスクは少ないと考えられています。

出展:
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu01950320149

日本での表示ルールにおいては、2015年8月現在「分子蒸留したものはアレルゲンが除去されていると考えられるので特定原材料等の表示不要。ただし、大豆油等で希釈したものは添加物表示に(大豆由来)等の表示が必要」となっており、大豆由来トコフェロールでも分子蒸留をしており大豆油等で希釈していなければ、アレルゲンとして大豆の表示はしなくて良いことになっています。
https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/file/21716_L12_01.pdf
https://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin12.pdf

尚、トコフェロールは多くのビタミンEサプリメントの主成分ですが、ビタミンEは多量摂取により死亡リスクもあります。

大豆由来フィトステロール


フィトステロールは、フィトケミカルの一種で、海外では健康食品などにも様々な用途で使用されています。大豆由来フィトステロールは精製大豆油から抽出されますが、菜種油、コーン油などからも抽出されます。どの植物由来かを明記していることが少なく、消費者にわかりにくい面がありますが、精製油からの抽出の場合、由来物のタンパク質残留は少なく、何由来かを明確にする必要はないのではないかとの意見もあります。
「製品中の残留アレルゲン(たん白)量に関して、信頼できるデータが不十分であり、大豆アレルギー患者に副作用を引き起こす可能性の有無は判断不可能であった。しかし、出発原料がで精製大豆油あることと、その後の製造工程を考慮すれば、本製品が大豆アレルギー患者に重症のアレルギー反応を引き起こす可能性は極めて低いと科学パネルは考える。」
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu00850450149
https://www.sunsho.co.jp/pdf/phytosterols.pdf

日本では今後使用機会が増えていくにつれ、表示ルールについても触れられるかもしれません。

小麦や乳清由来蒸留アルコール


「アルコールを蒸留する際にホエーを加えた酒は、EU圏ではで広く消費されていますが、アレルギー反応が引き起こされたという報告は見つからなかった。また、蒸留液中及び蒸留過程におけるタンパクの残留やアレルギー誘発性に関するデータから、ホエーを使用した蒸留液がアレルギー反応を引き起こす可能性はないことが判明した。ただし、ホエーを加えて蒸留したアルコールがアレルギー反応を引き起こす可能性があるかどうか、疫学試験や二重盲検法を用いた食物負荷試験は行われていない。
適切に管理された蒸留過程をへた場合、少なくとも0.5mg/L以上のタンパク、ペプチド及び0.04mg/L以上のラクトースが蒸留液に移行することはなく、ホエーを使用したアルコール蒸留液がアレルギー反応を引き起こすことはない、という結論に至った。」とあります。

また小麦が原料の蒸留酒についても、ELISA法での検出精度も完全ではない面もあるが、蒸留酒に原料となる小麦の抗原性があると明言はできず、不調がある場合も、アルコールそのものへの反応である場合もあるとしています。

出典: 欧州食品安全機関(EFSA)、蒸留酒に使用されるホエーに関する科学パネルの意見書 https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu01950280149

Opinion of the Scientific Panel on Dietetic products, nutrition and allergies [NDA] related to a notification from CEPS on distillates made from cereals pursuant to Article 6 paragraph 11 of Directive 2000/13/EC
https://www.efsa.europa.eu/sites/default/files/scientific_output/files/main_documents/nda_opinion13_ej130_distfromcereals_en1%2C2.pdf

日本では2015年8月時点で、アルコールの原料となる穀類や果実についての表示ルールは定められてはいません。

また、ワインや果汁のファイニング工程において、加水分解小麦グルテンが使用されることがあります。200mg/kgを超えない限り、セリアック病患者へのリスクはないと考えられ、アレルギーにおいても、濃度が影響します。

加水分解小麦グルテンに関する NDA パネルの意見
Opinion of the NDA Panel on hydrolysed wheat gluten(21 December 2004)


アルコールの原料や製造過程におけるアレルギー抗原性については、また別途お送りします。

    {genreName}

      {topics}