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経皮感作について

2016.04.06

投稿者
クミタス

スキンケア商品には、食物、食物由来の原料が含まれることがあります。小麦、乳製品、ココナッツミルク、ココナッツオイル、ヤギのミルク、ピーナッツオイル、くるみオイル、シアバター、オート麦、パパイン酵素など・・・。

経皮感作と食品由来のスキンケア商品によるリスク


食物由来の油脂をスキンケアとして使用する場合、皮膚経由で成分を吸収していくうちに感作し、その食物を食べた際に、アレルギー症状が出現する場合があります。

ピーナッツオイルを含むスキンケア製品を使用するグループでピーナッツアレルギーの発症が多い
(Epidemiologic risks for food allergy  Gideon Lack 2008 ほか)

パパイヤを原料とする、蛋白分解酵素のパパインを含む洗顔料に感作され、食物アレルギーの症状を発症
(パパイン酵素入り洗顔料による接触蕁麻疹とワサビによるアナフィラキシーの合併例 松倉節子ほか 2011)

ヤギのミルク成分が含有された保湿剤を使用していた女性がヤギのミルクに高いIgE抗体反応を示しており、ヤギミルクのチーズにアレルギー症状が出現した。
(GOAT’S MILK MOISTURIZER INDUCES GOAT’S CHEESE ALLERGIC REACTION 2014)

精製度合にもよりますが、食物由来原料を含むスキンケア製品を使用することで、食物アレルギーを発症する可能性は以前から示唆されています。

経皮感作したタンパク質とは異なるタンパク質にアレルギー症状が出現することも


(旧)茶のしずく石鹸でも知られる加水分解小麦含有石鹸使用後に即時型アレルギー症状を出現した方においても、食物アレルギーの既往はない方、アトピー素因がなかった方もいらっしゃいます。
それまでに小麦を食べてアレルギー症状の無かった方においては、皮膚経由で小麦タンパクを吸収するうちに、経皮感作により、獲得していた経口免疫寛容が破綻し、小麦を食べてアレルギー症状が出現するようになると考えられています。

小麦、小麦粉を摂取した際の食物依存性運動誘発アナフィラキシーではω-5グリアジン、高分子量グルテニンサブユニットが主なアレルゲンになると考えられていますが、グルパール19Sに経皮感作した場合のアレルゲンは主にγ-グリアジン、ほかに比較的少なくなりますがω-5グリアジンなどが挙げられます。

しかし加水分解小麦含有石鹸の事例においては、加水分解小麦含有石鹸に含まれる加水分解小麦グルパール19Sに経皮感作した後に、小麦、小麦粉を経口摂取した際、グルパール19Sに含まれるタンパク質以外の小麦タンパクに、交差反応によりアレルギー症状を出現することがあると考えられています。

経皮感作の要因、フィラグリンのはたらき


経皮感作には、皮膚表層である角層のバリア障害、アレルゲンの皮膚透過、皮膚での免疫応答が主要な因子となっておこると考えられていますが、皮膚角層のバリア障害を起こしやすい、アレルギー性疾患を発症しやすいアトピー素因のある方には、フィラグリンの遺伝子変異がおこっている可能性があります。
フィラグリンはケラチンと同様に角質細胞の細胞質内に存在するタンパク質で、水分保持においても重要な役割を持っており、フィラグリンの分解産物は保湿因子としてもはたらくとみられています。フィラグリンの遺伝子変異によりフィラグリンが十分に機能しない状態では、食品中のタンパク質を皮膚経由で透過しやすくなりますが、角層のバリア機能を高められれば、アレルゲンの皮膚透過から皮膚での免疫応答へと進行することを食い止めることも可能になり得ます。

遺伝子変異に合わせた予防対策


フィラグリン遺伝子変異がある方は、日本人のアトピー性皮膚炎患者さんの27%との報告がありますが、フィラグリン遺伝子変異は尋常性乾癬との関連も示唆されています。
フィラグリン遺伝子変異のある方においては、その遺伝子変異に合わせ、バリア機能を補う対応(保湿剤対応、治療)、ダニ・花粉・食物等のアレルゲンへの暴露低減などの予防加療、対策により、経皮感作予防、アトピー性皮膚炎発症予防などに有効になる可能性もあります。

アレルゲンを皮膚貼付することでの耐性獲得可能性

アレルゲンを皮膚貼付することでの耐性獲得可能性

食物アレルゲンを皮膚に貼付けることで食物アレルギーの耐性を誘導するEpicutaneous immunotherapy(EPIT)についての研究では、「小児の牛乳アレルギーで耐性の獲得が得られ、副作用も局所の皮膚炎のみで軽症であった」との報告もあります。
(Cow's milk epicutaneous immunotherapy in children: a pilot trial of safety, acceptability, and impact on allergic reactivity, J Allergy Clin
Immunol 125(5):1165-1167, 2010. )

アトピー性皮膚炎があり牛乳アレルギーのある11歳男児において急速経口免疫療法の継続が難しくなった際に、EPITに切り替え増量していった例も報告されています。
(食物アレルギーにおける経皮免疫療法(第7報)経口免疫療法継続困難例における検討 2015)

意図しない経皮感作へはバリア対策をおこなう一方、あえて経皮感作による免疫寛容誘導をおこし、重篤な症状をおこさないようにする治療についても今後の進展があり次第ご紹介したいと思います。


参考:
加水分解コムギの経皮感作によるアレルギー 酒井信夫,中村里香,中村亮介,安達玲子,手島玲子
化粧品に含まれる食物アレルゲン 2013
アトピー性皮膚炎の多様な病態 角層バリア障害/フィラグリン遺伝子変異から内因性アトピーまで 秋山真志

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